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世界遺産登録申請中!ノイシュヴァンシュタイン城、リンダ―ホーフ城、ヘレンキームゼー城

Neuschwanstein snow Pixabay

 2024年2月1日、ドイツ政府は世界遺産委員会にノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城(シャッヘンの御用邸含む)、ヘレンキームゼー城などのルートヴィヒ2世の城の登録申請を正式に行った。
これらの城を管理するバイエルン王城協会には、公式特集サイトが立ち上げられている。
この3城はDreams in Stone – the palaces of King Ludwig II of Bavaria: Neuschwanstein, Linderhof and Herrenchiemseeというタイトルで、すでに2015年からユネスコ世界遺産委員会の暫定リストに掲載されていたが、ようやく本申請となり、来年以降の世界遺産委員会で登録の可否が審議されることになったのである。
 ノイシュヴァンシュタイン城は世界で最も有名な城でありながら世界遺産にはなれない、と長年ネット上で揶揄されてきたが、ここにきてその汚名(?)を返上する可能性が生じたのである。
しかし長年世界遺産登録の動きがなかったわけであるから、実際、世界遺産登録は難しく、難航する可能性が高い。
私は2020年の過去記事でノイシュヴァンシュタイン城の世界遺産登録の根拠を、暫定リストの記載に基づいて解説しているが、今回改めて3つの城の登録根拠について解説したい。
ノイシュヴァンシュタイン城の世界遺産登録に関して日本でもやがて報道がなされると思うので、ドイツ観光史や世界遺産学の専門家として私の見解をここにあらかじめ記しておく。

1,ノイシュヴァンシュタイン城はなぜこれまで世界遺産登録されなかったのか?
 ノイシュヴァンシュタイン城は19世紀後半の歴史主義建築それも折衷主義建築で、しかも政治史的な意味がないから、というのが、世界文化遺産に登録されなかった理由として一般に考えられている。
ノイシュヴァンシュタイン城は中世のロマネスク様式を基調に後期ゴシック様式など複数の時代にまたがる建築様式でデザインされ建てられている。
つまりロマネスク様式のように中世という時代を代表する建築様式ではなく、その模倣に過ぎない、つまりオリジナルな建築様式ではないと、みなされてきたからである。
実際、歴史主義の建物はドイツやヨーロッパに数多くあるが、世界遺産に登録されることは稀である。
例外的に登録されているものとして、例えばイギリスの国会議事堂であるウェストミンスター宮殿がある。
19世紀の再建で、ネオゴシック様式の歴史主義建築である。
しかしユネスコ公式サイトによれば、「19世紀のゴシック・リバイバル」(ネオゴシック様式で多くの建物が作られた現象)に影響を与えた建築物であり、かつ議会君主制(Parliamentary monarchy)の物証として登録されており、単純に建築様式のオリジナリティで評価されているわけではない。
仮にノイシュヴァンシュタイン城が世界遺産登録されるとすれば、(模倣の)歴史主義建築にもかかわらず、その独特のオリジナリティが後世の建物や文化に影響を与えた、ということでなければ世界遺産委員会に認められないはずである。

2,ノイシュヴァンシュタイン城はなぜ世界遺産に登録申請されたのか?
 バイエルン王城協会公式サイトによれば、世界遺産登録のきっかけは、1997年に城の近郊でゴルフ場を含む複合商業施設の建設計画が明らかになったことである。
王城周辺の景観を壊しかねない計画にバイエルン州文化財保護局は抗議し、景観保護を強く求める声明を発表した。
ルートヴィヒ2世自身がワーグナー宛ての手紙に記したように、城は「神聖にして近寄りがたい」ことが重要なのである。
そうでなければ、孤独なメルヘン王が見た景色が失われてしまうのだから。
 その後2001年に、バイエルン州議会はドイツ政府に対し、ノイシュヴァンシュタイン城を世界遺産暫定リストに載せるように請願した。
政府による世界遺産暫定リストへの掲載は、世界遺産登録の前提条件である。
そしてその登録の理由の一つが、複合商業施設建設によって景観が破壊されることへの危惧だったのである。

3,ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、ヘレンキームゼー城の複合推薦(serial nominations)
 2007年にバイエルン州政府は、ノイシュヴァンシュタイン城だけでなく、ルートヴィヒ2世が建造したリンダーホーフ城とヘレンキームゼー城も一緒に世界遺産暫定リストに掲載するようドイツ政府に請願した。
フランスのブルボン王朝の宮殿をモデルにしたこの2つの城も典型的な歴史主義建築で、それ単独では明らかに世界遺産登録は難しい。
そのため、よりオリジナリティや影響力の強いノイシュヴァンシュタイン城と一緒に登録すれば、世界遺産の一部として認められるのではないか、と考えたのである。
この戦略が吉と出るか凶と出るかは、今後の世界遺産委員会での審査次第である。
場合によっては、リンダ―ホーフ城とヘレンキームゼー城を外すように勧告される可能性もある。

4,世界遺産の登録根拠
 世界遺産暫定リストに掲載されている登録根拠に関して、以下に要約して紹介する。
ドイツ政府とバイエルン州政府は、ルートヴィヒ2世の城は以下の4つの登録基準を満たしていると主張している。

・登録基準1「人間の創造的才能を表す傑作である」
 建設者ルートヴィヒ2世の想像の世界、つまりワーグナーのオペラの世界やブルボン朝の歴史舞台を再現する独自の芸術的傑作である。

・登録基準3「ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証である」
 19世紀の万国博覧会風の景観展示。
リンダーホーフ内のムーア人の東屋やモロッコハウス、人工洞窟等は、遠方や過去の時代を想像させる展示方法で、19世紀独特の文化現象である。

・登録基準4「歴史上の重要な段階を物語る建築物」
 過去と遠方を再現する総合芸術:19世紀に風靡した地上の楽園。
「19世紀は、退避(逃避主義、ロマン主義)と発展(テクノロジー、より良い世界)の緊張状態が特徴で、それが地上の楽園の表現に行きついた」。
「ルートヴィヒ2世は、過去と遠方の世界に没入できる無垢の場所(山、谷、島)、王国の辺境に、地上の楽園すなわちもうひとつの世界を創り出した」。

・登録基準6「顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある」
 中世から19世紀後半までのヨーロッパの知的歴史の表象。
 中世の伝説(ワーグナーのオペラの世界)や、18世紀の絶対主義の時代を表現している。

5,世界遺産の登録根拠の私的評価
 この4つの登録基準のうち、基準3については3つの城全体というよりは、特定の施設にのみ当てはまっているように思われる。
また、基準1と基準6は、顕著な普遍的価値としては弱いと思われる。
ブルボン朝の宮殿をモデルにした宮殿は、例えばサンスーシ宮殿など枚挙にいとまがない。
ワーグナーのオペラの中世の伝説の世界を再現した城は、確かにオリジナリティはあるが、「顕著な普遍的価値」が際立つ人類普遍の文化だとまで言えるだろうか?
そこで最も説得力がある登録基準が、基準4つまり、退避と発展の19世紀に創り出された地上の楽園という主張である。
なぜ私がこの基準を重視しているのかと言えば、前文でも同様のことが強調して書かれているからである。
「19世紀は、退避(逃避主義、ロマン主義)と発展(テクノロジー、より良い世界)の緊張状態が特徴で、それが地上の楽園や人工的パラレルワールドを創出する表現に行きついた。・・・
20世紀には映画の中でこのビジュアルが表現され、今日ではさらにバーチャルコンピューターやテーマワールドで表現されている」。
ノイシュヴァンシュタイン城のような「地上の楽園」を作り出そうとする試みは、20世紀、21世紀にも引き継がれており、生きた文化的伝統(基準3)だと言えるのである。
例えば、ディズニーランド(=地上の楽園)に継承されている文化的伝統である。

6,私見:世界遺産としてのノイシュヴァンシュタイン城
 以上、世界遺産暫定リストに書かれている通り、ノイシュヴァンシュタイン城は、常に緊張が強いられる現代に必要とされる「地上の楽園」「パラレルワールド」「テーマパーク」である。
そしてテーマパークや仮想世界などの「現代の我々のエンターテイメント文化の源泉の一つ」として、顕著な普遍的価値がある世界遺産にふさわしいものである。
世界文化遺産は、建物が古いかどうか、建築様式がオリジナルかどうかだけが重要なのではない。
後世の建築に重要な影響を与えたのかどうか(基準2)、文化的伝統として現代でも生き続けているのかどうか(基準3)という点も重要なのである。
何より現代はストレスフルで緊張を強いられる社会だけに、ノイシュヴァンシュタイン城のような地上の楽園で癒されたいという願望は人類普遍のもの、つまり顕著な普遍的価値を持つものであると個人的に思うのである。

ドイツ観光局広報マネージャー 大畑悟

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プロフィール

ドイツ観光局 大畑悟

Author:ドイツ観光局 大畑悟
ドイツ観光局広報マネージャー。
東京大学大学院博士課程満期退学。
ウィーン大学留学。
専門は歴史学(ドイツ観光史)。
Twitter.com/SatoruOHATA
寄稿や講演の依頼などは、satoru.ohata(a)germany.travelまで。

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