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ノイシュヴァンシュタイン城は鉄筋コンクリート製か?

雪のノイシュヴァンシュタイン城

1、鉄筋コンクリート製の城はフェイクニュース
白鳥の城ノイシュヴァンシュタイン城が、実は鉄筋コンクリートで作られているという説がツイッターやウェブ記事で散見されますが事実でしょうか?
結論から言えば、これは2015年から広まったフェイクニュースです。
なぜならノイシュヴァンシュタイン城が建設された1869年から1886年までに、鉄筋コンクリートという新しい建築技術はドイツではまだ実用化されていなかったからです。
そもそも鉄筋コンクリートとは、コンクリートの芯に鉄筋を配した物で、フランス人庭園師モニエMonierが1867年に特許を取得したのが始まりとされます。
そして、「欧州における鉄筋コンクリート技術の歴史的変遷」と題する論文によれば、このモニエの特許をドイツのヴァイスWayss社が1885年に購入し、1887年に鉄筋コンクリート構造物の簡易な設計法のパンフレットを関係者に配布したことで知られるようになったのです。そしてその設計法で最初にドイツで建設された鉄筋コンクリートの建造物が、1899年建造のマイニンゲンのゲオルク橋とされます。ドイツにおける鉄筋コンクリート建造物の登場は、ノイシュヴァンシュタイン城よりも10年以上後の話なのです。

2、フェイクニュースの普及はツイッターから
ではどこからこの誤った情報が広がったのでしょうか?
「ノイシュヴァンシュタイン 鉄筋コンクリート」でツイッター検索すると、2015年4月28日のツイートで600回近くリツイートされたものがあり、その後、5月1日にそのツイートを含むまとめサイトが作成されています。
「ノイシュヴァンシュタイン  鉄筋コンクリート before:2015」でグーグル検索してもウェブ記事が見当たらないことから、このツイートが源泉と推定できます。
なお、ウィキペディアの「ノイシュヴァンシュタイン城」で、2016年10月13日に「石造りではなく鉄骨組みのコンクリート及びモルタル製」と加筆されたことで、この説はさらなる広がりを見せます(2021年2月14日に筆者が修正)。

3、ノイシュヴァンシュタイン城は煉瓦造りの城
そもそもノイシュヴァンシュタイン城はどのような素材で作られたのでしょうか?
実は城の公式サイトの「建築史」の項目で、「基礎部分はコンクリートで固められ、壁は煉瓦から構成され、白い石灰石で覆われた」と明記されています。
さらに1998年発行の公式ガイドブック日本語版『王城ノイシュヴァンシュタイン』には、1879年、1880年に費やされた建材の統計が掲載されています。1880年は城本館の建物自体が完成した年ですから、建材も主に本館に使われたものと考えられます。量の多い順に並べると、

1,砂 3600立方メートル(およそ6000トン)
2,砂岩 4550トン、Nürtingen産
3,煉瓦 40万枚(およそ1000トン)
4,セメント 600トン
5,大理石 465トン、ザルツブルク産
6,石灰石 50トン、シュヴァンガウのAlterschrofen地区産

砂や砂岩はセメント同様、主に城の基礎部分に使用されたと考えられます。その他砂岩は、出入り口の門扉の外枠や窓の外枠にも使われています。城の内部の柱や天井、窓枠に使われたのが大理石で、城館の壁に使われたのが煉瓦と石灰石です。これについて公式ガイドブックでは「ノイシュヴァンシュタイン城の外壁はすべて石灰石板で化粧張りがしてある。・・・支えの石積みはレンガである」と明記されています(典拠1)。
かつてウィキペディアでは、「石造りではない」と書かれていましたが、ノイシュヴァンシュタイン城を石造りの城とは呼べないとしても、上記のように砂岩や大理石、石灰石が大量に使われていることに言及しないのは不正確です。また、「モルタル製」(セメント+砂+水)とも書かれていましたが、城本館の外壁は主に煉瓦と石灰石板で、モルタルは板のつなぎとしてのみ使われているにすぎないのです。
ちなみにコンクリートは近代の建築技術というわけではく、すでに古代ローマ時代に建材として使われており、ローマン・コンクリート(鉄筋の入っていない無筋コンクリート)と呼ばれています。

4、玉座の間は鉄骨で支えた
元来の計画では、基本的に煉瓦を支えに城本館を建造することになっていましたが、ルートヴィヒ2世は玉座の間を予定の2倍に拡張するため、その方針を変更し、玉座の下の間を鉄骨や鉄柱で支えることにしました。そうしないと安定が損なわれ、下の間が危険にさらされてしまうからです。鉄柱は人工大理石で覆い隠されましたが、下の間の天井に設置された鉄骨はむき出しのままで、その写真を見ると確かに城館全体が総鉄骨組みであるかのように錯覚してしまうでしょう(典拠2)。
下の間の一角は今日Café & Bistroで、天井を見上げると、煉瓦とそれを支える鉄骨を見ることができます。
この部屋を見て鉄筋コンクリート造りの城と勘違いした人が出たのかもしれません(鉄骨と鉄筋コンクリートは別物ですが・・・)。このように一部の部屋で鉄骨や鉄柱が設置されているとはいえ、それはあくまで補強のためで、城館の壁は基本的には煉瓦で構成されています。

5、まとめ
以上のように、ノイシュヴァンシュタイン城の基礎部分は(無筋の)コンクリートなどで固められ、鉄骨、鉄柱も一部補強で使われているとはいえ、城館の壁の主要構成要素は、鉄筋コンクリートではなく煉瓦(と石灰石板)なのです。つまり城館の建物自体についていえば、コンクリート製というよりはむしろ煉瓦造りといった方が実態に即しているのです。
鉄筋コンクリートという新しい建築技術が普及する前ですから、強度の弱い無筋コンクリートで城館を作るはずはなく、主に煉瓦で城の壁を建設したのはむしろ当然のことと言えます。
「鉄筋コンクリートの城」という言葉からは、1931年建造の大阪城天守閣が思い浮かびます。
一見中世の古城のように見えるノイシュヴァンシュタイン城が、実は20世紀の鉄筋コンクリートの城だったと言えば、たいていの人があっと驚くと思うものでしょう。しかしそれは事実に反し、ノイシュヴァンシュタイン城は、鉄筋コンクリートが実用化する前の19世紀後半に、当時の最新技術を駆使して建設された煉瓦造りの城なのです。

ドイツ観光局広報マネージャー大畑悟

・典拠1:ユリウス・ディーズィング『王城ノイシュヴァンシュタイン』ヴィルヘルム・キーンベルガー出版社、1998年、6頁、37頁
・典拠2:Jean Louis Schlim, Ludwig Ⅱ. Traum und Technik, München, 2001, S. 62-65

コメント

No title

「鉄筋コンクリート製」ではないが、建造物で最も重要な基礎部分はコンクリート製で、部分的に鉄骨も使っている「中世風」の近代建築であるということですね。尚、「石造りではない」というのは正しい表現です。大理石が使われていても構造物として使っておらず壁や床に使用しているだけで、外壁は主にレンガ造りということであれば、これは建築の世界では石造りと呼ばないのです。

返信

フォロワー様
丁寧なコメントを頂戴しまして、ありがとうございました。
>「中世風」の近代建築
その通りです。
>「石造りではない」というのは正しい表現です。
確かにその通りですね。文章を少し改めて私の言いたかったことを明確にしました。

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